SSブログ

2023年の記憶(3) [雑感]

2023年12月31日(日)曇り.

夕方,近くの公園にでかけた.昨日は天気が良かったので広場で子どもたちの凧揚げをみたが,今日は雲が低く空を覆って,まだ5時前なのに暗い.凧どころか,そもそも人がいない.軍手をした掌もつめたく,自転車をこぎならが,これから先を思って気分が沈む.

自分の2023年をひとことで総括すれば,「ナイーブで甘すぎた」というのが結論だ.ガザを見れば,世界がいかに麻痺しているかに解説はいらないだろう.狂気が平然とした日常の背景に溶け込んでしまって,破綻を止めることができない.

しかし来るべきものは来るだろうし,復讐はなされなければならない.







nice!(0)  コメント(0) 

2023年の記憶(2) [雑感]

2023年12月29日(金)晴れ.

Bloomberg (2023年12月28日):
「ロシアの凍結資産3000億ドル(約42兆3600億円)相当を接収する方策について,主要7カ国(G7)の作業グループで検討するよう米政府が提案したと英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた.ロシアによるウクライナへの本格侵攻から2年の節目となる来年2月24日に間に合うよう合意を急いでいるという.

事情に詳しい複数の関係者が同紙に語ったところでは,今月開かれたG7財務相のオンライン会合で協議されたが,決定には至っていない.

FT紙によれば,欧州各国で引き続き活発に検討され,ウクライナ支援への活用に向け,ロシア資産接収に向けた作業が加速している.西側にとって,その重要性が増す状況を浮き彫りにすると同紙は伝えた.」
(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-12-28/S6D2TYT1UM0W00)



この件について,同日のロイター報道のタイトルでは,'US proposes G7 explore ways to confiscate $300 bln in Russian assets -FT'となっている.上記Bloombergの日本語訳では「接収」となっているが,要するに

confiscate: take or seize (someone's property) with authority (Oxford Dictionary of English)

して,ウクライナ支援に使うことをG7で検討中という報道である.

我々には取ってもいい「権威」がある,ということをいいたいのだろうが,要するに他の主権国家の財産を盗むということです.その後の使いみちを言ったところで,盗みは盗みだろう.姉の子どもたちのために,パン1本を盗んだジャンバルジャンがどうなったか,Les Misérablesを読んだことがないのか?

この種の検討はしばらく前から海外の地政学サイトで紹介されてきたので,それが欧米の主要メディアにでようが別にどうということもない・・・と思っていたのだが,FTの記事の後,G7として'JAPAN'が言及されるようになってきて,ビビっている.アカン,名指しで言われてもた.

パトリオットだけかと思っていたが(それも大問題だが),とうとう他人の財布に手を突っ込む相談に加わっているのか.かつてはサムライの住む国だったが,そのうちハリウッド映画でも,サムライの故郷は実は中国,というストーリーの映画ができるだろう.


欧米は前例のない規模の経済制裁でロシアを崩壊させるつもりだったが,大失敗.自分の足を撃ってしまった.ウクライナ前線の状況も,大手メディアで針小棒大の「撃破」を叫んでごまかしているが,敗勢はいかんともしがたいことはもう誰でも知っている.いろいろ「ゲームチェンジャー」も送ったが,焼け石に水.プーチンに欧米の兵器の神話が崩れたと言われる始末.

そしてついには,盗みの思案か.これがドルの崩壊を加速させるだろうことは,有名な人々も言っているのに,obsessionが理性を圧殺してしまう.ヘボ将棋で負けるときと一緒だね.その読みは無理筋です.


他国がどのような判断を下そうが関わり知らぬことだが,自国がこの破廉恥に加担しようとしているのは心苦しい.もしこのまま「7人の泥棒」のシナリオにキャスティングされれば,とうぜん報復を覚悟しなければならない.

政治家や官僚は辞めれば終わる話でも,将来つけを支払うのは国民である.少なくとも,我が国が現政権のもとで,装備品の海外輸出に関する重大な規定を書き換えたこと,および,この共同謀議に参加しつつあること(一抹の希望なしとしないが)を,ここに明記しておく.












nice!(0)  コメント(0) 

2023年の記憶 [雑感]

2023年12月28日(木) 晴れて寒さも緩んだ.

昨晩は寝ようとしているときに,イランがホルムズ海峡に機雷を敷設するのは時間の問題という情報に接して一挙に目が覚めた.ほぼ同時刻,11月25日のイスラエル軍の空爆によってシリアで死亡したイラン革命防衛隊Razi Mousavi将軍の葬儀の動画をみた.

イスラム革命防衛隊の報道官は,シリアで軍事顧問のMousavi氏が暗殺されたことについて,イランはイスラエル政権に適切に対応し,「さまざまな時と場所でテロ攻撃に報復する」ことを誓うと続報があった.ホルムズ海峡機雷敷設は選択肢だろう.

これを受けて,また1973年と同じトイレットペーパーの暴騰騒動がおきるかもしれないので,夜のうちに家族に連絡.備えあれば憂いなし.これで十分か? もちろん足りない.




昨晩のゴタゴタで今日は朝から気分が落ち着かなかった.午後からWar and Peaceを読み進めて,vol.4,Part 2まできた(p. 986).

ピエールは処刑場に連行され,銃殺を待っている.
'Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland'(Christopher R. Browning)の第2次大戦中の杜の中のユダヤ人処刑の実話が,そのままここに再現されているような錯覚に陥る.

もしかしていつの間にかストーリーが変わってしまっていて,ピエールはこのまま死ぬのではないかとさえおもえてくる.別の作品を読んでいるような混乱が起きる:

''Though he did not account for it to himself, his faith in the world's good order, in humanity's and his own soul, and in God, was destroyed."


ここ数年,水に落ちた一滴の墨のように薄く自分の心理全体に拡がっていたモノの実体が,世界の本質的なprecariousnessが,刑場に引き出されたピエールのなかに2重写しに見える.

その後,アンドレイの死が続く.そのとき彼の中で何が起きていたか,それが生きているものの側からどう見えたか,あるいは隠されていたか,なぜこんなことがかけるのか,自分自身がいままさに死につつあるように,またこれまでみた忘れられない死を,そこに重ねて読む.

たとえば,アンドレイが自分の病室に入ってくるナターシャやマリヤ,ソーニャを白い影として見る視点の移動は,定時の検温にカーテンをひらいて入ってくる看護師を,朦朧とした意識の中で認識した術後の病床を思い出させた.

自分に注意を払ってくれている人がまだいるというそのときの不思議な安堵は,アンドレイが死の側により深く移行していくにつれて,彼の自覚の中から徐々に消えていく.その推移が読んでいる側でも同時に起きる.つまり,アンドレイとともに自分も死んでゆく.これ以外のどんな読み方ができるのか?


幕がおりて拍手もなく静まり返った劇場のように,見たものの重い記憶が振りほどけず,まとわり付いてきて逃げられない.もう楽しいオペラは終わってしまった.


読んで後,薄暗くなった駅前を急ぐ勤め帰りの人々に混じって,公園に散歩に行った.イヌと歩いていた頃は,こんな気持ちになったことはない.何が失われたのか,考えはじめて・・・すぐにやめた.













nice!(0)  コメント(0) 

 [来るべき世界]

2023年12月26日(火)晴れ.

真実に,文字通り命をかけたジャーナリストすべてに.あなた方のおかげで,私達は生き延びた:








nice!(0)  コメント(0) 

笑い [雑感]


'He laughed rarely, but when he did, he gave himself wholly to his laughter.' (vol.2, part 3, XXIV; p. 481)


2023年12月24日(日) 曇り.寒さがやわらぐ.昨日まで雪化粧で白かった県境の脊振の山並みも,いつもの青黒い稜線に戻った.離合も厳しいあの山道をイヌ連れで上まで行ったのはいつだったか.イヌがいなくなって,再び出かけてみよう思う気持ちも,溶けた雪のように消えた.笑うことがすっかり減った.

最近,嘲笑の意味ではなく笑ったのは,2度しかない.かつては嘲笑など記憶にないのだが,ここ数年は唾をはきたくなるようなウソが堂々とまかり通っているので,報道をあざ笑うことが増えた.しかし,そのような笑いは精神に良くない.段々とこちらまで品性下劣に落ちていくようで,「心根のよさ」に誘われる笑いが恋しい.そんな笑いがたった2度だよ.永く生きて何が楽しいのか.


気持ちよく笑わせてくれた1度目は,ピエール.ある種のアルファベット数字換算表をもちいると,啓示13章18節の野獣の数字666は,L'empereur Napoléonに当てはまる(p.665).つまりナポレオンこそ啓示の野獣であり,反キリストである.ピエールはこの発見に打たれて,では野獣ナポレオンを制する力がどこ(誰)から来るのかを,同じ暗号のロジックで解こうとする.

L'empereur Alexanderなど,いろいろやってみるがうまく666にならない.そして自分の名前をあれこれ弄くり回して,とうとうL'russe Besuhofが666にピッタリハマることをしる.啓示に予告されていたナポレオンを阻止するのは自分だ.モスクワの無価値な社交会から解き放たれ,今こそ偉大な将来が自分を招いているのだ.ほぼ漫画.

しかしこの気持ちの良い笑いは長く続かなかった.実際にモスクワに仏軍が入ってきたとき,ピエールは懐中に短刀を忍ばせてナポレオンを暗殺せんとする.その前後のピエールについて,こう書かれている:

'Pierre was in a state close to madness.' (p.898)

彼に人生の展望を開いた使命感が,実際のボロジノの戦闘とモスクワの混乱の経験後には,狂気に変わっていた.核武装,侵略者の打倒,軍備増強の夢も,狂気に転じるだろう.


もうひとつ笑わせてくれたのは音楽の話.ふたりの日本人作家が,ヴァーグナー祝祭劇場で落ち合って美術館・劇場通いをしたときのエピソード:


「この時は,大岡さんは折りさえあれば,ヴァーグナーの話をもちだしてきた.私がヴァーグナーを弁護する義理もないが,嫌いではない.それに,これがなかったら,音楽は「近代芸術」の仲間入りができたかどうか,心もとない,というのが私の考えだ.

ところが,大岡さんは,よほど,ヴァーグナーが気になるか,癪にさわるかするらしい.ときには「あいつにはああしか書けなかったのは認めるよ」ぐらいまで軟化するが,その翌日は「だが,あんなものが天才なら,芸術も楽なもんだ」とからみだす.頑固というか,執拗というか.・・・


ある晩,私はR・シュトラウスのオペラを,彼はモーツァルトをききに出かけた.その帰りあった大岡さんの機嫌のよいことといったらなかった.地獄で仏にあった人とは,こういうのをさすのだろうか.」ー吉田秀和「大岡さんの部屋」


大岡昇平は『レイテ戦記』を書くまえに,『戦争と平和』を読み直した.





nice!(0)  コメント(0) 

防衛装備移転三原則改定 [War]

2023年12月23日(土)曇り.相変わらず寒い.

「政府は22日,防衛装備品の輸出ルールを定めた防衛装備移転三原則と運用指針を改定した.直ちに新規定を適用し,米国企業のライセンスに基づき日本で生産する地対空誘導弾パトリオットの米国への提供を決定した.輸出ルールが大幅に緩和され,安全保障政策の大転換となる.2014年の防衛装備移転三原則制定以降,殺傷能力がある武器の輸出を決めたのは初めて.

 改定は防衛装備移転三原則を閣議,運用指針は国家安全保障会議(NSC)で決定し,国会での議論はなかった.武器輸出は国際紛争を助長する懸念が否めないが,国民への説明を欠いたまま輸出が進む恐れがある.」(Kyodo , 2023年12月22日,Web 版,18:27 配信)

これは極めて重大なニュースである.毎朝視聴している海外の地政学サイト(英語)でも,韓国からウクライナへ送られた155ミリ砲弾についての解説と並行して,今回の日本からのパトリオットの間接迂回輸出が言及されていた.つまり,即世界に知れ渡ったということである.

共同のニュースページ(https://news.yahoo.co.jp/articles/d62d77dab5d996181a01658ca3e3027d02dd8f09/images/000)には,「防衛装備品輸出ルールの主な変更点」が表にまとめられている.

それによると,「ライセンス生産品」については,「米に限らずライセンス元の国へ完成品も解禁.要請があれば第三国への輸送も可」と改定された.また「輸出可能な非戦闘目的5分野」に関して,従来は「救難,輸送,警戒,監視,掃海の目的に限る.殺傷能力のある武器は不可」とされいたが,今回の改定で「業務や自己防護のためなら,殺傷武器の搭載も可」と変更された.


これをきいて,喜んでいる人もいるようだし,複雑な気持ちになっている人,どう解釈すべきか判然としない人,また自分のように呆れている人もいるだろう.どこに呆れるのか?


「安全保障政策の大転換」であっても,国会での議論を経ず,閣議および国家安全保障会議のみで変更を決めた点である.改定後,「直ちに新規定を適用」したという部分を読んで笑った.実は直ちに送らねばならないものできたので,国会の議論を省略して急いで改定したということである.これほど重大な問題であっても,国会を飛ばしていいのだから,米国の要請は我が国民の主権の上にあるということは自明である.QED.



米国自身が自分で装備品を送れなくなっている状況については,いろいろ読んでいる.そこは米国自身の問題だから,自国の財政赤字を膨らませようが,ドルの信任を失墜させようが,勝手にやればよい.

だが,ウクライナにはパトリオット・システムも数台送っているはずだが,故障したのかな? まさか,露製のポンコツ短刀キンジャールごときに破壊されたはずはないだろうし,なんで焦っているのかな? 現在のホワイトハウスの外交政策は失敗に次ぐ失敗で,米国が中東で影響力を失ったことはいまや隠しようもないが,ウクライナ紛争も負けそうなのか? 


ゼレンスキーは,米国が見捨てるはずはない,といっている.ゼレンスキーにもそう言う権利はあるだろう.侵攻直後の2021年の3月末に,ほぼまとまりかけていた露との和平交渉を潰したのはだれか,いまでは西側でも報道されるようになったので,関心のある人は誰でも知っている.

ウクライナに戦争をやめてほしくないと思った人間は,英米に隠れている変態宇宙人レプティリアンとしか思えない連中である.他人の命をかけて露を叩き潰したいと思った彼らの責任だよ,確かに(少ない支出で露を弱らせるのは,米国国防予算のもっとも効率的な使い方だ,と米ニュース番組で公言した上院議員(Lindsey Gramham)もいるぐらいだから,隠れもせず堂々と表に出ているが).いったい何人のウクライナ兵が死んだと思っているんだ.プーチンでさえ,レプティリアンを信じた30年前の自分はナイーブだった,といっているじゃないか.

しかし,その米国も今回は相手が悪かった.アフガニスタンでも,イラクでもない.

1812年8月26日,ボロジノの戦闘の直後,露軍はナポレオンに対する勝利を確信するに至る.Kutuzovはナポレオン軍をfinish off するために,新たな戦闘の準備を命ずる.しかし,その日の夕刻,および翌日,次々に入ってくる報告は,露軍が前例のない規模の損失を被ったことをしらせる:

"reports came in one after another about unheard-of losses, about the loss of half the army, and a new battle turned out to be physically impossible." (p. 824)

兵力の半分を失った.負傷者は十分に顧みられず,死者の数もしれず,死んだ指揮官の補充もなされず,食べ物もなく休息もない.攻撃は不可能であり,撤退してついにモスクワを放棄する.

しかし,モスクワを明け渡し,半身を失っても露軍は戦闘をなげなかった.米軍はこの相手と渡り合おうとしているのである.LGBTQが軍の内部にまで根をはった今の米軍で勝てるのか?  I doubt it.


日本政府は自分たちの命をかけた抵抗しか国民を守るすべはないことを覚悟すべきである.首相が次々に暗殺され,組閣すら困難になる政治状況の中からしか祖国の防衛は生まれてこないだろう.自国が戦争に巻き込まれ,攻撃されるということが,いかに人間の理性を狂わせるか,わきまえていなければならない.このままでいくと,後ろから糸で操作され,ウクライナと同じ道を歩かされかねないと懸念する.


War and Peace, vol.4, part 1, VII (p.956) まできた.マリアの内面的なmoral beautyが,外側に顕われる様の記述は見事で,例えも的確,眼前に見えるようだ.そして彼女の内と外のその隠された繋がりが,ニコライに理解できないのはなぜなのかもよくわかる.

2つの家族には全く異なった血が流れていて,彼らは混じり合わない.ナターシャがマリアを嫌い,マリアが兄の婚約破棄を喜んだ理由もそこにある.実に家族というものは,それぞれ別の生物を育むのである.

歴史の激変のなかで交差する2つの家族のものがたり.だんだんとページが少なくなっていくのが唯一の欠点だが.










nice!(0)  コメント(0) 

1年8ヶ月 [イヌ・散歩]

2023年12月21日(木)曇り.朝から今年一番の寒さで,寝床のある北向き位置する部屋はfreezingで,ベッドも冷凍庫の如し.今年初めての暖房を入れる(北国の人に笑われそうだが).

世界情勢は凶兆続出.中東の危機の深化(バブアルマンデブ海峡周辺に集結した原子力空母アイゼンハワー打撃軍を中心とする他国籍軍とイエメン・フーシ派の間の有り得べき戦闘)は,我が国の経済にエネルギー危機(1973年のオイルショック)の再来をもたらす可能性がある.

また,米国の2024年選挙は一体どうなるのか? すでに民主主義国とは思えないアメリカ合衆国は遠からず'united' statesではなくなるのかもしれない.欧州の混迷もなにがなんだかわからない点では,合衆国に劣らない.ウクライナ紛争の今後の展開について西側の意図と目論見が,プーチンの最近のスピーチの内容とあまりにもかけ離れている.こんな状態で,和平交渉とはなにをいみするのか? 非現実的な空想が,到達可能な将来として語られていて,笑いたくなる.

我が国についても,政治の混乱は今に始まったことではないが,国の将来と我々の福祉に直結するより重要な問題から目をそらさせ,それを隠すためにわざとやっているのではないかという気さえする.報道に関しても同様だ.別の大切な問題がたくさんあるでしょうが,と言いたい.


真面目に考えていると正気が怪しくなってくるので,別のことで精神の平衡をたもたなければならない.



朝,電車を待っているとき,よくプラットホームの端まであるく.そこでは遮蔽物が途切れていて日差しが直接プラットホームのアスファルトを照らして暖かい.そして,なにより大野城の山並みが遠望できることがある.

霧に霞んでいる日など,黒っぽい山肌が白い蔭に包まれて,見ているといまでもイヌがそこをあるいているような気がしてくる.中腹に,湧き水が岩肌を勢い良く伝わり落ちる場所があって,暑い日はそこでよく水を掬ってのませた.


16世紀末の岩屋城の戦いで,少数の兵力で立て籠もった高橋紹運を,島津の大軍によく抗戦させた理由の1つが,ここ大野城の湧き水であると読んだ.イヌに水を飲ませていると,時を隔てた戦国の生死と今が,同じ水で繋がれているような連鎖を意識した.

山を下ると,麓に水城がある.白村江の敗戦後,大宰府の防衛のために築かれた大堤で,いまはその一部しか残っていないが,堤を覆って茂る木々の緑は豊かで,夏の散歩のよい日除けであった.

そこから程ない距離に,堤を切るように御笠川が流れている.その水辺に腰をおろして,しばらく休む.これから先のこと,やがて散歩が独りになってしまったときのこと,そんなどうしようもないことが浮かんだ.

7世紀には御笠川は川幅もずっと広く,遠く筑紫平野に流れ込む豊かな河だっただろう.一時の休憩から立ち上がって川沿いにたどった帰り道も,いまは木々に覆われてしまって失われた.電車の中からそこがみえると,我が国の誕生期から青春の動乱期をたどって歩いていたような気さえしてくる.

その歴史の散歩もいまは消えた.これらか100年後も大野城はそのままだろうが,我々がそこを歩いていたことを知るものはだれもいない.なんと儚いことだろう.



惜しいことに『戦争と平和』Part III, vol.III, XXXII(p.923)まできた.とうとうモスクワは燃えはじめた.どうすんだよ,物語はもうすぐ終わりだ.

少なくとも自分にとって,これは「読む」ことはできない小説だ.物語に引きずり込まれ,そのなかを生きるしかない.何回目であっても,最初読んだときと全く同じだ.


ただ,読むたびに異なる箇所に目が開かれる.アンドレイはやっとナターシャに対する自分の過酷さに目覚める.そうだよ,気持ちはわかるが,君はちょっとキツイ男だよ:

'And he understood her feeling, her suffering, shame, repentance. For the first time now he understood all the cruelty of his refusal, saw the cruelty of this break with her.'

ナターシャの個性のなかでは,たしかに奔放な外に向かった開いた天然の魅力が優勢だが,それでいて決然とした現実性をもっている.戦闘で傷ついた兵士の看病にそれがみえる:

'the doctor had to admit that he had not expected from a young lady either such firmness or such skill in looking after a wounded man.'


ふたたび重症を負ったアンドレイが,せん妄状態と現実認識の間を行き来する部分の記述を作者はどうやって書くことができたのか? ガンの術後に熱がなかなか下がらず,夢と現実の中間状態をさまよったときの記憶がアリアリと蘇った.






nice!(0)  コメント(0) 

In a pool of blood [War]

2023年12月14日(木) 雨.ここ数日,夜中でも気温があまり下がらず,3時前後に暑さで目覚める.それから朝まで寝つけず,昼間の頭痛と疲労,また気力の低下が著しい.薬を飲んでごまかす.もうお終い.

朝,各種経済データをみると,アレッ円高・ドル安に振れ,米国債(10年)の利回りが急落4%をきっている.そのうちまた150円超えに戻るだろうと思っているのでとくにどうということもないのだが,FXやっている人は寝られないかもしれない.

EUはどうやら凍結した露の国家資産を「盗んで」ウクライナに送る手続きを開始するようだ.総資産の利払い分(2兆円を超える)を本来の所有権者に支払わず,数年に分けてゼレンスキーに届ける.

アメリカのウクライナ支援も先が見えてきて,当初のシナリオが完全破綻したEUもパニックだ.それは理解するが,この際パーティ券の売り上げキックバックだろうがなんだろうが,いただけるものは頂戴するという露骨さに,アッパレというか,ちょっと感心したり.

このアイデアが頭の中に宿るだけでも大した不敵さだが,実際にやろうとしているのだ.見よ,2024年は恐怖の大王が空から降ってきても驚いてはいけない.自民党内部のゴマカシがアニメ的に見えるほど,怖いことが起きつつある.



『戦争と平和』は第3巻パート2(p.820)まで読了.もう武器を捨てたはずのボルコンスキー公爵がふたたび戦場に戻る気になったのはなぜか,という今回の読書前の最大の疑問が氷解した.

Smolensk陥落後,ナポレオンはモスクワに迫り,連隊長アンドレイ公爵も部下と共に退却する.途上,実家に立ち寄る場面がある.

今やまさにナポレオンはそこまで来た.しかし,たとえそのようなことが起きてBald Hillsが危うくなろうとも,自分は正規軍には復帰しない,とピエールにいったではないか.もう戦場には戻らないと.

正確にかけば,(Alexanderの傍で宮廷官吏を選択する道もあったがそれを捨てて)前線に復帰した方が先であるから,フランス軍が実家の近くに迫りつつあるかどうかに関わりなく,彼は再び剣をとったのだ.なぜか?

'He was repulsed by everything that bound him to the memory of the past'

つまり,彼が信頼した再生の希望が,崩れたからだ(ただしそれは20歳かそこらの世間知らずな娘次第の,もともと不確かな希望だったが).そして,内に渦巻くやり場のない怒りや,後悔や,プライドや,自身の潔癖さが,「過去の記憶」を踏みにじらせ,憎悪させた.ある意味,戦場へ戻る以外に生きていく方法はなかった.少なくとも彼はそのような精神構造をしていた.それが良く分かった.



モスクワ方面へ撤退する自軍が踏み入り,ガラス戸も割れた生家の現在の荒廃と,「もっとも小さいところに至るまで」思い出すことができる子供時代の我が家の記憶の対比は,他人事とは思えず,電車の中で目頭が熱くなって困った.これは近い将来,我々に臨むかもしれない未来であり得ると思えたためである.いまの世界情勢を思えば,祖国の荒廃がまた起きる不吉がそこに透けて見える.

今回は,自分の経験の拡がりが物語の細部に深いリアリティを与え,読み進めなくなるときが少なくなかった.マリアが父を亡くすときの記述は,愛情をもった人を喪った人にしかかけないだろう.寝床で読んでいて,涙がでてとまらなかった.



その後,物語はボロジノの戦場の殺戮を描いていく.なんと想像のなかで,兵士が死ぬ様が見える:


'the little officer said “Ah” and, curling up, sat on the ground like a bird shot down in flight・・・There were many dead whom he did not know. But some he recognized. The young little officer sat in the same curled-up way, by the edge of the rampart, in a pool of blood.'


この後,物語がどこに向かってすすむのかがわかっていると,気分が暗くなる.数日間本を閉じた.それから再び戻ってきて,第2部の終わりまで一気に読んだ.

なんと救いようのない物語だろう.そしてこれが作り物という気がいささかもしないのは,なんと悲惨なことだろう.




nice!(0)  コメント(0) 

Ce qui sera, sera [音楽]

2023年12月7日(木) 晴れ.


仕事でクタクタ.専属トレーナーのイヌがいなくなってから,体力落ちまくり.タンクに残っているガソリンももう残りわずか.補給する気もないし,あとは勝手にしてくれ.


好きな音楽を聴いて,ぜんぶ忘れて寝る.





イタリアに行きたい
407921689_723710029674470_8758038276674844397_n.webp.jpg
Elina Garanca as Eboli at Teatro alla Scalla








nice!(0)  コメント(0) 

訃報 [雑感]

2023年12月5日(火)晴れ.ずいぶん寒くなってきた.

いろいろと書くことが多いような何もないような不思議な1週間だった.

海外ではキッシンジャーが100歳で死んだ.不換紙幣ドルの世界支配を確立した立役者が,その支配が危うくなりつつある矢先に舞台から退場した.今後10年間,世界がどう変わっていくか,個人としても国家としても,存立の基盤が大波に洗われるときが間近に迫っているように思える.

たとえば,マイナンバーカード(デジタルID),国連のアジェンダ2030,WHOのパンデミック条約,CBDCなど,いろいろと単独でもこれまでの社会のあり方の基礎を揺るがす変化が起きつつある.その周知が十分なされなかったり,極めて曖昧なまま事が先に進んで既成事実化するのではないかという恐れが拭えない(WHOのパンデミック条約など,それが当てはまる).

主流メディアがほとんど当てにならないので(知らないと思っているのかもしれないが,ウクライナ情勢などお笑いに近い報道が未だに続いている),気づいたときは足元まで水が来ていたということになるのではないか? 自己防衛しかないといっても,制度の中に組み込まれてしまえば回避できないものもある(CBDC).


中東情勢もまったく予断を許さない.原子力空母アイゼンハワーを中心とする打撃群は11月末にペルシャ湾に入った.これに地中海東部の空母打撃群(ジェラルド・フォード)を加え,対イランの臨戦態勢は着々と整いつつあるように見える.予想しているとはいえ本当にやるつもりなのか?




夜こうしたことを考えていると,無意味で無益な努力を続けているような気がしてくる.所詮自分に残された時間はもうあまりない.また歴史はどうやったところで,ひとりでは変えることはできない.

かつての「反キリスト」ナポレオンが消え,いまキッシンジャーが消えたように,いまから10年後にはNATOも消滅しているかもしれない.知的好奇心をのぞけば,今後の展開を予想しても競馬予想程度の意味もないだろう.

'Now all the active figures of the year 1812 have long left their places, their personal interests have vanished without a trace, and only the historical results of that time stand before us.' (p. 682; part 2, vol.3)

そうおもえば,すべての懸念がどうでもいいような気さえしてくる.



11月29日に,脚本家の山田太一氏が亡くなった.なにを思い出したかと言うと,『早春スケッチブック』をDVDで借りてみたことである.小説『異人たちとの夏』は,原作そのものも映画もどちらも読みかつ見たが,これは後から知ったドラマで,なんとしても見たいと思って探し出して全部見た.

社会に同調しない(できない)外れ者と常識との危険な緊張を描いて,それでいてある静けさが支配するドラマであった.山崎勉演じる孤独な偏屈者の最期を,家族みんなで看取るように優しくかいてくれた作者に感謝したい.

「私にとって,あなたは何より,姿であり声であり,筆跡でありました.」(山田太一による寺山修司への弔辞)





nice!(0)  コメント(0)